母から娘への手紙

〇〇へ

今、こうして貴女の幸せそうな花嫁姿を見ていると生まれた時のことを思い出します。

あの日は何十年に一度の大雪の日。予定日よりずっと早く始まった陣痛に、お父さんが雪道を何度もスリップしながら二時間半かけて運転し、ようやく病院に着くとまるで待っていてくれたかのように元気な産声を上げた貴女。

その声を聞いた時は本当にうれしくてうれしくて…涙が止まりませんでした。真っ赤な顔で泣いている貴女に「何があっても守っていくからね」と誓ったことを覚えています。きっと、お父さんも同じ気持ちだったと思います。

そして、素直で思いやりのある子に育つよう「〇〇」と名付けました。

小さい頃から活発で男の子のような貴女が唯一静かにしていたのは大好きな絵を描いている時だけ。今でも小学校○年生の夏休みの宿題で描いた点描画を見た時の感動は忘れられません。点々だけの見事な絵に「この子は天才なんじゃないか」と真剣に思ったほどです。親バカですね。

そして、ありがたいことにそんな貴女には、いつも大事な場面で励ましてくれる先生や友達がいてくれました。その応援に応えるように、貴女が選んだのは■■の美大でしたね。

けれどもそれは家を出て一人暮らしをするということ。頑張り屋でいつも明るく前向きな反面、寂しがり屋で泣き虫な貴女が本当に一人でやっていけるのか…、考えれば考えるほど不安と寂しさが募るばかりでした。でも貴女は一人で一生懸命頑張りましたね。

時々かけてくれた電話は「もしもし…」の声を聞くだけで、すぐに貴女がうれしいのか悲しいのかわかりましたよ。泣いている時は、ただ聞いてあげることしかできない自分を親として情けない…と思ったりもしましたが、貴女は必ず最後に「聞いてくれてありがとう」と言ってくれましたね。その度に自分が辛い時でも相手を思いやれる優しい子に育ってくれたことを心からうれしく思いました。

そうやって自分の好きな道に進み、日本画や素晴らしい先生方、多くの友人たちに出会えた十年間は貴女にとって一生の財産だと思います。これからも大好きな日本画を描き続けていってくださいね。お父さんと一緒に応援しています。

そして、そんな娘とこれからの人生を共に歩んでくださるのが●●さんです。何よりも娘の大切にしている、絵を描くことを理解してくださっていることには感謝の気持ちでいっぱいです。至らない娘ですがどうぞよろしくお願いします。いつまでもお互いを思いやり、支え合って温かい家庭を築いていってくださいね。本当におめでとう。

母より